心の筋トレ



ある社会学者によれば、現代は「感情の劣化」の時代だという。
確かに時事のニュースを見ていても、ほとんどの場合、本質的なところではそこに繋がっているように思う。

人が人を思いやる気持ち、想像し共感する能力や共生感。あるいは、人を信頼するということ。そういったことはすべて、知性ではなく感情から生まれる。

〝現代人は忙しい〟 当たり前のように使われるこの言葉。だけど「忙」という文字は、心に亡くすと書く。

あらゆる事が便利になり、快適さを増し、安全安心な暮らしが手に入ったはずなのに、時間の流れはどんどん速くなり、忙しさは加速するばかり。いかに生産性を上げるか、いかに効率を上げるか。世界はそういった「コスパ」&「損得」情報で溢れている。

そんな日々の中では、感情が劣化しても無理はないと思う。人の心や感情は、本来生産性や効率では測れないところで動いている。コスパ度外視。それが心というもの。何より、感じることには感じるための時間が必要だ。

だけど、この忙しい日々の中で、一体どれだけの「感じるための時間」を持てるだろうか。

人間のAI化が進み、同時にAIの人間化が進んでいく。
これはもはやSFでも絵空事でもなく、実際に現実のこととして現在進行形で起こっていること。そして、そう遠くない未来に、その線が交差する時が来るかもしれない。

そうなった時、「AIにはできないこと」が「人間の価値」ということになる。数値化できない、非サイエンスだからこそ価値を持つ、意味を持つもの。人間だからこそできること。それはやっぱり、「心で感じること」じゃないかなと思う。

人の感情については色々な説があるが、人間の基本感情は大きく分けて大体5つと言われている。「喜び」「ムカつき」「悲しみ」「恐れ」「怒り」。ダライ・ラマと心理学者のポール・エクマンの共同研究によると、この5つをさらに細かく見ていくと、合計46種類の感情に分類されるという。最近の他の研究では数千種類とも言われている。どうやら、人の感情のバリエーションはたくさんあるらしい。

感情の豊かさとは、どれだけ自分の中にこのバリエーションを取り揃えているか、ということだと思う。個々の性格や考え方などによって、人それぞれ、より感じやすい感情というものはあると思う。しかし例えば、喜びしか感じないというのも、悲しみしか感じないというのも、どちらも「感情貧乏」だと言える。

たとえ貧乏でも!できることなら「喜び」を感じていたい。悲しみやムカつきや恐れや怒りは要らない。と思うのが人の性というもの。しかし、その結果生まれたのが、現代の便利快適安心安全の〝コスパ社会〟だ。なんとも、因果なことである。

これは、いわゆる人類総どんぐり状態。みんなでコスパ沼にはまってしまっているようなものだ。こうなったらもう、ドジョウと一緒に遊んでなんぼなのかもしれない。

しかしそうは言っても、それでは行き着く先は、A.Iジョーならぬ、A.Iドジョーである。それはそれで、ちょっとおもしろいかもしれないが、せっかく人として生まれたからには、このコスパ沼池地獄から抜け出して、人に与えられた特権として、感情リッチに生を謳歌してみたい。少なくともわたしはそう思う。

それにはやはり、「感じる」ことしかない。喜びも悲しみもムカつきも恐れも怒りも全部。感じることができるということ。それ自体がきっと、豊かさなのだと思う。

辛い時も楽しい時も。どんな感情でも行く先はリッチにつながっている。大切なのは、そのことを知っているということ。そして、今自分が感じてることを1つ1つ、できるだけじっくりとしっかりと「感じる」こと。それが、心の筋トレ。

さて。ドジョーかリッチか。あなたはドッチ?

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