Alma Har'elというイスラエル系の映画監督がいる。
MVやCM、ドキュメンタリーなどの分野で長年活動していて、CHANEL NO.5にインスパイアされて撮った『Jelly wolf』というショートフィルムを始め、昨年初めて撮った長編映画『Honey boy』はあらゆる賞を取り絶賛された。今とってもホットな女性監督の1人。
移民かつJewishというバックグラウンドを持ち、ジェンダーバイアスについても精力的に発信している彼女が、ハリウッドで女性の映画監督として作品を作り続けるということについてのインタビューの中で、こんなことを言っていた。
“I’ve had many experiences that left me feeling emasculated, not objectified.”
(今まで去勢されてると感じる経験を何度もしてきた。モノとして扱われるのではなく。)
MeTooやTime’s upなどが象徴しているように、アメリカ、しかもハリウッドですらまだまだジェンダーイシューが色濃く存在している。わたしはこのインタビューの中にあった「emasculated」という言葉がとても印象に残った。去勢する、無気力にさせる、骨抜きにする、といった意味を持つ言葉で、要はパワーを奪われる、”無力化”されるということ。
これはたまたま、トピックがジェンダーについてだったけれど、結構世界中のどこでも、様々なシチュエーションで様々な人が遭遇する経験なんじゃないかと思った。
特にジャポンは、世界的にもユニークなカルチャーを持つ、”Kawaii”の国でもある。可愛いとは、文字通りの解釈だと、愛すべきとか、愛おしいと言った意味合いだが、別の解釈をすればまさに、「emasculated」的ニュアンスも含まれるのである。つまりは「無害化」。
近年、「ブラック企業」なる言葉もよく見聞きするようになった。それもまたわかりやすく、お上信仰が極まった現代バージョンとも言える。さらに別バーションだと「同調圧力」という言葉もある。
何がしかの「力」に遭遇した時にどう対処するかは、その時の状況やそれぞれの資質や性格にもよるので、万人に共通する正解はないと思う。
そこを前提として言えることは、もし少しでも〝パワーを奪われている〟と感じた場合は、戦うでも逃げるでもいいので、とにかくできるだけ早い段階で「具体的なアクションを起こす」ことだと思う。
例えば、山で遭難した時や海で溺れかかった時など、身の危険を感じた時にまずすべきことは「自分の身を守る」ということ。もちろんそこには何かしらのアクションが伴う。そこで停滞する時間が長いほど、体力も体温も奪われ、状況は悪化していく。
そして、そんな状況の時に自分の身を守るために最も役に立つのは、「怖い」「痛い」「なんかやだ」「気持ち悪い」といった、なんとなく感じる違和感や不快感という、人類というより生物であれば本来誰もが備えているデフォルトの感覚だったりする。こんな便利な機能を使わない手はないだろう。
何も自然の中での極限状況を例にしなくてもいいじゃないかと思うかもしれないが、実際のところ、人間社会においても本質的にはそう変わりはないと思う。むしろわたしは、生きていく上で必要なことのほとんどは自然界から学んでいて、それはプラクティカルに役に立っている。だって、動物だもの。
当然、アクションを起こさないまま時間が経過していくと、だんだんと感覚がマヒしていく。これもまた生存本能が成せる技ではある。しかし、自分の置かれている状況に鈍感になってしまうと適切な判断はおろか、自分のパワーが奪われていることにすら気づけない、あるいは気づいていても時すでに遅し、という状態になってしまう。
おそらく、ブラック企業で大変なことになっている人はそういった状況にいるのではないかと思われる。そして、例え働いている会社がブラック企業ではないとしても、似たような状況に陥っている人は少なくないのではと思う。なぜなら、ジャポン全体がブラック体質だから。
ちなみに、沖縄では「マブイ（魂）を落とす」という表現がある。一見、健康で元気そうに見えるけど、フタをあけたらもぬけの殻。みたいなこと。マブイを落としたような、なんとなく輪郭がぼんやりしてボヤッとしてる人は、近年ますますよく見かけるようになった。しかし、それはきっと、元々パワーがないわけではなく、使うべき所でパワーを使ってないから、という至ってシンプルな事のようにも思う。
アクションを起こすべきところで、アクションを起こす。
使うべきところで、パワーを使う。
何のひねりもオチもないけれど、真実はいつもシンプル。
そんなわけで、大きな声が「力」を持つ昨今だからこそ、自分のごくごく個人的な感覚、すなわち「小さな声」を大切にすることが、何よりも最強のカウンターパンチにもなるのではないだろうか。
ガンガン声出していこうぜー！（ウィスパーヴォイスで）
0 Comments